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大阪高等裁判所 昭和34年(ネ)602号 判決 1963年1月21日

判   決

神戸市生田区北長狭通四丁目一番地地産ビル内

控訴人

株式会社室谷商店

右代表者代表取締役

室谷山水

右訴訟代理人弁護士

伏見礼次郎

兵庫県小野市

被控訴人

小野市

右代表者市長

藤原雄次

右訴訟代理人弁護士

大白慎三

大白勝

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し金四四七、〇〇〇円及びこれに対する昭和三一年一一月二四日より支払済まで年六分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、

被控訴人は主文同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張、証拠の提出、援用、認否は、以下に補充訂正する外、原判決事実記載と同一であるから、ここにこれを引用する。

控訴人は、

「控訴人主張の請求原因の要旨はつぎのとおりである。

被控訴人は訴外有田愛治作成の左記委任状に左記のとおり被控訴人代表者名義を以て「右承認す」と奥書をなし、控訴人は右奥書済の委任状を有田愛治より受取つた。

委 任 状

弊店儀兵庫県小野市と契約し工事施行中の所東条小学校講堂新築工事費を受領する金額の内左の件を神戸市生田区長狭通り四丁目一株式会社室谷商店社長室谷山水殿に直接受領之件委任致します

一  委任受領之金額 一金四十四万七千円也

一  時期及金額 小野市と己和工務店との工事契約書に依る

一  此の金額に相当する品目 別紙室谷商店見積書に依る

一  納品現場着の時期 己和工務店の指示に依る

右委任状仍而如件

昭和参拾壱年七月五日

西脇市南本町三丁目

己和工務店代表者 有 田 愛 治印

右御承認相成度

右 有 田 愛 治印

小野市長 藤原 雄次殿

右承認す

兵庫県小野市長 藤 原 雄 次印

以上の事実により、有田愛治が被控訴人に対して有する下東条小学校講堂建築工事請負代金の内金、金四四七、〇〇〇円の債権について、控訴人が債権者となり、有田愛治が債権者でなくなる、旨の契約が、控訴人、被控訴人、有田愛治の三者間に成立し、控訴人に対し右金四四七、〇〇〇円の債権を有するに到つたものである。

よつて、控訴人は、被控訴人に対し右代金四四七、〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和三一年一一月二四日より支払済まで年六分の割合の損害金の支払を求める。」

と述べ、

被控訴人は、

「控訴人の右主張事実中、被控訴人が控訴人主張の委任状に「右承認す」と奥書したことは認めるが、その余の事実は否認する。

右奥書は、有田愛治が右請負代金代理受領権限を控訴人に対し授与したことを、被告訴人において単に事実上承認したものにすぎない。

仮りに、控訴人主張の実質上の債権譲渡がなされたものとしても、右債権譲渡には、確定日附ある証書を以てする債務者以外の第三者に対する対抗要件を欠くところ、昭和三一年一〇月八日有田愛治に対する高瀬熊吉外四者の債権者よりの申請に基き合計金五六二、五〇〇円の本件請負代金について仮差押の決定があり(神戸地方裁判所社支部昭和三一年(ヨ)第二九号)、同日第三債務者たる被控訴人にその送達があり、ついで同年一二月二四日右債権者に浦上登を加えた六名の債権者よりの申請に基き合計金五八三、九一一円の本件請負代金について差押及び転付命令が発せられ(神戸地方裁判所社支部昭和三一年(ル)第六号昭和三一年(ヲ)第一三号)、翌日被控訴人にその送達があり、これによつて、有田愛治の被控訴人に対する請負代金債権はすべて消滅した。」

と述べ、(証拠省略)

理由

被控訴人が控訴人主張の委任状に「右承認す」と奥書した事実は当事者間に争がない。

(証拠―省略)によれば、控訴人が被控訴人の奥書した右委任状を有田愛治より受取つたのは、控訴人が有田愛治に控訴人主張の請負工事の材料を売渡すに際し、その代金の取立に不安を感じ、有田愛治に要求した結果であることは認められるけれども、右委任状はその記載によれば有田愛治の被控訴人に対する工事請負代金の代理受領権授与の委任状であること明かであるから、被控訴人の右代理受領委任状奥書と右委任状授受によつて、控訴人、被控訴人、有田愛治の三者間に控訴人主張の契約(実質的には、有田愛治控訴人間の債権譲渡と被控訴人の承諾)がなされたものと認めることはできない。前記各証拠を綜合して見ても控訴人主張の事実を確認できず、かえつて、(証拠―省略)によれば、有田愛治は控訴人に対し、被控訴人に対する叙上請負工事代金の代理受領権限を授与し、これによつて取立てた金員から前記納入材料代金の回収を得しめ、事実上その債権を確保する方法をとるにあたり、予め被控訴人にその代理受領権限を確認させ、もつて控訴人にその方法の確実性を信頼させる趣旨で、被控訴人の右委任状への奥書を得たものと認められる。

よつて、控訴人の本訴請求は、その余の争点について判断をなすまでもなく、失当であるから、これを棄却すべく、本件控訴を棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

大阪高等裁判所第八民事部

裁判長裁判官 石 井 末 一

裁判官 小 西   勝

裁判官 中 島 孝 信

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